「居抜き物件の方が、安く開業できますよね?」
テナントを探しているお客様から、よく聞かれる質問です。
確かに、カウンターや厨房設備、エアコンなどが残っていて、そのまま使えるのであれば、開業時の改装費を抑えられる可能性があります。
ただ、私は居抜き物件を見るとき、単純に「設備がたくさん残っているからお得」とは考えません。
居抜き物件の本当のお得さは、「設備がたくさん残っていること」ではありません。自分のお店として、そのまま使える部分がどれだけ残っているかです。
今回は、テナント仲介と店舗改装の両方に関わっている立場から、私が居抜き物件を見るときに確認しているポイントを書いてみたいと思います。
カウンターが残っていても、そのまま使えるとは限らない
飲食店の居抜き物件では、立派なカウンターが残っていることがあります。
一見すると「これは使える」と思いますが、カウンターはお店の業態によって高さや奥行き、席の取り方が変わります。バー、和食店、洋食店などでも使い方は違います。
また、前のお店が一人客を中心としたカウンター主体のお店だったとしても、これから始めるお店が家族連れをターゲットにするのであれば、テーブル席を増やした方が良い場合もあります。その場合、カウンターを短くしたり、一部を撤去したりする工事が必要になることもあります。
反対に、カウンターや厨房の配置が自分の考えているお店に合っていて、壁紙や床、天井などを変えるだけでイメージを一新できるのであれば、非常に良い居抜き物件だと思います。
大切なのは「カウンターがあるか」ではなく、自分のお店の営業スタイルやターゲットに合っているかです。
私が改装前にまず確認するのは電気です
店舗改装の相談を受けたとき、私が早い段階で確認するものの一つが電気です。
飲食店、美容室、リラクゼーション、事務所など、業種によって必要になる電気容量は違います。厨房機器、エアコン、給湯設備、ドライヤーなど、使用する機器によって必要な電力も変わります。
そのため、既存の設備が残っているからといって、そのまま新しいお店で使えるとは限りません。
契約容量やブレーカー容量、回路、必要に応じて単相・三相(動力)などを確認し、専門業者にも確認してもらいます。場合によってはブレーカーや回路の追加などが必要になることもあります。
居抜き物件では、内装だけではなく「これから使う設備を動かせる状態なのか」を見ることも大切です。
エアコンや給湯器は「今使えるか」だけで見ない
天井カセット型のエアコンなどが残っていると、新しく購入しなくて済むため、とても魅力的に見えます。
ただし、設備が古ければ、入居して間もなく故障する可能性もあります。
私はエアコンやガス給湯器などが残っている場合、製造年などを確認し、古い設備であれば将来的に交換が必要になる可能性や、おおよその費用感についてもお客様にお話しするようにしています。
今、使えるかだけでなく、あとどれくらい使えそうかまで考える。
これは居抜き物件を検討するときに、とても大切な視点だと思います。
冷蔵庫や製氷機などは契約条件も確認する
飲食店の居抜き物件では、業務用冷蔵庫や製氷機などが残されていることがあります。
ただし、こうした設備は契約内容によって扱いが異なり、現状有姿で引き渡される場合もあります。電源を入れた時点では動いていても、その後すぐ故障する可能性もゼロではありません。
「設備が残っている=設備代が完全に不要」と考えるのではなく、故障した場合の交換費用なども含めて開業資金に余裕を持たせておく方が安心です。
重飲食では排水設備なども確認する
焼鳥店やラーメン店など、油を多く使う飲食店の場合は、排水設備やグリストラップなどについて確認が必要になることがあります。
建物の状況や業態、地域の基準などによって必要な対応は異なりますので、専門業者や関係機関への確認が必要です。
ただ、最初から「グリストラップが付いている物件だけ」という条件で探してしまうと、候補が極端に少なくなる場合があります。
物件そのものが良ければ、必要な設備を設置する費用も開業予算に入れて検討する。私はそういう考え方も選択肢の一つだと思っています。
造作譲渡は「前の借主がかけた金額」で決まるものではない
居抜き物件では、内装や設備を次の借主へ譲る「造作譲渡」という形で募集されることがあります。
造作譲渡の金額は、物件の立地や設備の状態、需要などによって変わります。
前の借主からすれば、「これだけ改装費をかけたから、できるだけ回収したい」という気持ちは当然あると思います。
しかし、次に借りる人にとって価値があるかどうかは別の話です。
前の借主がいくらかけたかと、次の借主にとっていくらの価値があるかは別。
私は造作譲渡を見るとき、この考え方がとても大切だと思っています。
造作譲渡の金額が高すぎると、次の借主が見つからないまま契約終了を迎え、結果として原状回復や残置物の処分が必要になることもあります。
「居抜きで借りたから、居抜きで返せる」とは限りません
これは特に注意していただきたいところです。
居抜きの状態で借りた物件でも、退去するときに同じ居抜き状態で返せるとは限りません。
契約内容によってはスケルトンへの原状回復が必要な場合もありますし、退去時に貸主との協議が必要になる場合もあります。
そのため私は、契約時に原状回復についても確認し、重要事項説明などでお客様に説明するようにしています。
居抜きで借りたから、居抜きで返せるとは限りません。
開業時の費用だけではなく、将来退去するときのことまで考えて契約することが大切です。
うまく引き継げれば、居抜き物件は大きなメリットになる
もちろん、私は居抜き物件に否定的なわけではありません。
以前、しっかりと店舗改装をされた飲食店が、比較的早い時期に撤退することになったケースがありました。
内装や設備はまだ十分に使える状態でしたので、次に入る飲食店の方がそれらを活用することができました。
もし前の借主が高額な造作譲渡代を設定していれば、次の借主が見つからなかったかもしれません。しかし、双方にとって現実的な形で引き継ぐことができたため、次の方は開業時の負担を抑えることができました。
こういうケースを見ると、居抜き物件は本当に良い仕組みだと思います。
居抜き物件は「残っているもの」ではなく「活かせるもの」で考える
居抜き物件を見ると、どうしても「エアコンがある」「厨房がある」「カウンターがある」と、残っている設備に目が行きます。
しかし、本当に見るべきなのは、その設備や内装を自分のお店でどれだけそのまま活かせるかです。
使えない設備がたくさん残っていても、撤去や交換に費用がかかれば、結果としてスケルトン物件から作るのと変わらないこともあります。
反対に、カウンターや厨房、空調、電気設備などが自分の計画に合っていて、少し手を加えるだけで開業できるのであれば、居抜き物件は開業費用を大きく抑えられる可能性があります。
エンラージでは、テナント物件の仲介だけではなく、店舗改装・リフォームにも関わっています。
だからこそ私は、物件をご紹介するときも「この物件を契約できるか」だけではなく、この状態から実際にいくらくらいかければお店としてスタートできるのかというところまで一緒に考えることを大切にしています。
居抜き物件の価値は、「何が残っているか」ではなく、「自分のお店で何をそのまま活かせるか」。
これから独立開業を考えている方には、ぜひこの視点で物件を見ていただきたいと思います。


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