親御さんが高齢になり、介護施設や高齢者施設へ入所することになった。
そのとき、ご家族にとって一つの大きな問題になるのが、それまで住んでいた実家をどうするのかということです。
「とりあえず、そのままにしておこう」
そう考える方も多いと思います。
もちろん、施設に入所したからといって、すぐに自宅を売却する必要はありません。
将来自宅へ戻る可能性もありますし、お子様やご親族が住む予定があるかもしれません。
ただ、誰も住まなくなった家をそのままにしておけばよい、というわけでもありません。
今回は、実際に当社が携わった事例も交えながら、親御さんが施設へ入所した後の不動産について、何を考えておくべきなのかをお話ししたいと思います。
誰も住まなくなった家は、少しずつ傷んでいく
住宅は、人が住まなくなると想像以上に傷みやすくなります。
定期的に家を訪れて窓を開け、風を通す。
水道を流す。
トイレや洗面所、キッチンなどの排水トラップの水がなくならないようにする。
排水トラップの水が蒸発すると、下水から臭いが上がってきたり、害虫が室内へ侵入したりする原因にもなります。
一戸建てなら、庭木や雑草の管理も必要です。
枝が隣地へ越境したり、落ち葉が近隣へ飛んだりすれば、ご近所とのトラブルにつながることもあります。
つまり、親御さんが施設へ入所して実家が空き家になった瞬間から、誰かがその家を管理していかなければならないのです。
「いつか使うかもしれない」で残していいのか
そこで一度、ご家族で考えていただきたいことがあります。
「この家を今後、誰かが使う予定はあるのか?」
ということです。
お子様が将来住む。
親御さんが自宅へ戻る可能性がある。
賃貸住宅として活用する。
具体的な予定があるのであれば、所有し続けるという選択肢があります。
一方で、具体的な利用予定がなく、
「いつか使うかもしれないから」
という理由だけで何年も所有し続けるのであれば、一度立ち止まって考える必要があります。
空き家であっても、固定資産税などの負担は続きます。
建物が傷めば修繕費も必要になりますし、庭木や建物の管理にも手間や費用がかかります。
マンションであれば、誰も住んでいなくても管理費や修繕積立金などの支払いは続きます。
そのため、将来的な利用予定がないのであれば、売却も選択肢の一つとして検討する必要があると私は考えています。
実際に当社が携わったケース
ここで、実際に当社が携わった事例をご紹介します。
所有者の方が施設へ入所され、ご自宅が空き家になったケースです。
その方はきちんとご自身の意思をお話しできる状態で、
「相続する人にとって有益な不動産なのであれば、残してあげたい」
というお気持ちを持っておられました。
私も、その考え方は大切にしたいと思いました。
しかし、実際に不動産を確認してみると、別の問題がありました。
建物にはすでに雨漏りがあり、屋根や壁なども傷んでいました。
今後その家に住むのであれば、大規模なリフォームが必要になる可能性が高い状態でした。
また、相続した方が収益物件として活用する場合についても、多額の改修費用をかけてから賃貸することになります。
果たして、それが相続する方にとって本当に「有益な資産」になるのでしょうか。
私は建物の状態や今後想定される費用などについて、所有者の方にお話ししました。
そのうえで、最終的に所有者ご本人が選ばれたのが売却でした。
不動産を残すことが、必ずしも「資産を残すこと」ではない
今回の不動産は、残念ながら高額で売却できるような物件ではありませんでした。
それでも売却することによって、所有者の方の手元にはいくらかのお金を残すことができました。
そして同時に、今後発生する可能性のあった修繕費、維持管理、固定資産税、空き家管理、そして将来相続する方が負うかもしれない負担についても整理することができました。
私はこの事例から、改めて考えさせられました。
「不動産を残すこと=資産を残すこと」とは限らない。
ということです。
状態の良い不動産や収益性のある不動産であれば、次の世代へ残すことが大きな財産になるでしょう。
しかし、多額の修繕費が必要だったり、利用する予定がなかったり、維持管理に大きな負担がかかったりする不動産であれば、残された方にとって負担になる可能性もあります。
だからこそ、
「残すか、売るか」
だけではなく、
「どのような形で資産を次の世代へ残すことが、その家族にとって一番良いのか」
という視点が大切なのではないでしょうか。
もう一つ重要なのが、所有者ご本人の意思です
施設へ入所した後の不動産について考える際、もう一つ非常に重要なことがあります。
それが、所有者ご本人が不動産の売却について理解し、自分の意思で判断できる状態にあるかどうかです。
認知症という診断名だけで一律に不動産を売却できなくなるわけではありませんが、契約内容を理解して意思表示する能力が失われている場合、ご本人だけで売買契約を進めることは難しくなります。
その場合には成年後見制度などを利用して売却できるケースもありますが、手続きが必要になり、自宅など居住用不動産の処分について家庭裁判所の許可が必要となる場合もあります。
だからこそ私は、
「元気なうちに売却しましょう」ではなく、「元気なうちに家族で話をしておきましょう」
ということをお伝えしたいのです。
売るのか。
残すのか。
貸すのか。
そして将来、その家を誰が管理するのか。
ご本人の希望を聞けるうちに、一度家族で話し合っておくことが大切です。
売却するなら「いつ売るか」も考える
もう一つ、売却を検討する場合には税金についても確認しておく必要があります。
マイホームを売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」があります。
ただし、住まなくなった後であればいつ売却しても同じというわけではなく、適用には期限やさまざまな要件があります。
また、売却価格だけではなく、その不動産をいくらで取得したのかを確認することも重要です。
購入当時の売買契約書や領収書など、取得費を確認できる資料が残っているかどうかも、一度確認しておくことをおすすめします。
なお、税金や成年後見制度などについては個々の状況によって取り扱いが異なりますので、必要に応じて税理士・司法書士・弁護士などの専門家へ確認することが大切です。
施設への入所は「実家のこれから」を考えるタイミング
親御さんが施設へ入所されたとき、ご家族としては施設での新しい生活のことで精一杯だと思います。
だからといって、すぐに実家を売却する必要はありません。
ただし、誰も住まなくなった家を「とりあえずそのまま」にして何年も経過してしまうことには、さまざまなリスクがあります。
まずは、
この家をこれから誰かが使うのか。
残すことが本当に家族のためになるのか。
売却するのであれば、いつがよいのか。
そして何より、
所有者ご本人は、この家をどうしたいと思っているのか。
一つずつ整理してみてください。
「家を残すこと」と「資産を残すこと」は、必ずしも同じではありません。
不動産として残すことがよい場合もあれば、売却して現金という形で残す方がよい場合もあります。
大切なのは、どちらかを急いで選ぶことではありません。
ご本人の意思を大切にしながら、その不動産の状態とご家族の将来を見て、一番良い方法を考えること。
私たち不動産会社の役割も、「売ってください」と勧めることではなく、それぞれの不動産とご家族の状況を確認し、判断するための材料をきちんとお伝えすることだと考えています。

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