相続対策というと、相続税をいかに少なくするか、あるいは財産を誰に引き継ぐかということに目が向きがちです。しかし、実際に相続が発生したとき、もう一つ考えなければならない大切な問題があります。それは「相続税を支払うための現金を用意できるのか」ということです。今回は、当社の顧客様から実際に伺ったお話を交えながら、相続税の納税資金と不動産の売却について考えてみたいと思います。
突然の相続で、知らなかった株式が見つかった
以前、当社の顧客様から相続についてのお話を伺いました。ご家族が突然亡くなられ、相続が発生したそうです。亡くなられた方に預貯金があることは把握されていたものの、株式を所有されていたことは知らなかったとのこと。財産を調べる中で株式の存在が分かり、当初想定していたより相続財産が多いことが判明しました。
相続税は預貯金だけでなく、不動産や株式などを評価し、債務、控除や特例などを踏まえて計算します。ご自身で税額を計算することは難しく、税理士から納税額を知らされるまでにも時間がかかりました。そして、その税額に驚かれたそうです。突然の相続に加えて、知らなかった財産と想定外の納税額。ご家族の負担は大きかったと思います。
相続税が払えなければ、不動産の売却も考えていた
そのお客様は、納税のための現金が用意できなければ、不動産の売却も検討されていたそうです。幸い、最終的にはなんとか現金を用意でき、不動産を売却せずに済みました。
このお話を聞いて、改めて感じたことがあります。財産があることと、相続税を支払えることは別問題だということです。土地や建物に高い評価額がついていても、そのまま現金として納税できるわけではありません。しかも不動産は、必要なときにすぐ現金へ換えられるものではないのです。
相続税は10か月以内に申告と納税が必要
相続税は、税務署から自動的に納税額の請求書が届く仕組みではありません。相続税の申告が必要な場合、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続財産を調べ、税額を計算して申告・納付します。
例えば、4月1日に亡くなったことを同日に知った場合、原則として翌年2月1日が期限です(期限が土日祝日等の場合は翌開庁日)。その間に相続人の確認、財産調査、不動産や株式の評価、遺産分割の話し合いなどを進めます。突然の相続で精神的にも大変な時期に、慣れない手続きと納税資金の準備を進めることは簡単ではありません。
なお、相続が発生したすべての方に相続税の申告が必要なわけではありません。財産が基礎控除以下であれば通常は申告不要ですが、特例の適用に申告が必要な場合もあります。
相続登記は3年以内。でも、納税期限は10か月
2024年4月から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則3年以内に登記を申請する必要があります。一方、相続税の申告・納税期限は原則10か月以内です。相続登記と相続税の申告・納税は別の手続きで、期限も異なります。
相続税を支払うために不動産を売却するのであれば、納税期限に間に合うように動かなければなりません。通常、買主への所有権移転登記の前に相続登記を済ませます。遺産分割協議がまとまらない、必要書類がそろわないといった事情があれば、売却までの時間が長くなる可能性があります。
不動産は、売りたいときに売れるとは限らない
不動産会社として特にお伝えしたいのが、この点です。査定価格は、必ずその金額で売れることを保証するものではありません。売却活動を始めてもすぐに買主が見つかるとは限らず、立地、建物の状態、接道条件、権利関係などによって時間がかかることもあります。
買主が見つかり契約を結んでも、その後に決済・引渡しがあります。納税資金に充てるには、実際に売却代金を受け取る必要があります。期限が迫っているからといって希望価格で売れるとは限らず、急ぐあまり不利な条件を受け入れざるを得ない場合もあります。大切な財産を、納税期限に追われて慌てて売却する事態は避けたいものです。
売却代金のすべてを納税に使えるわけではない
例えば、相続した不動産を3,000万円で売却できても、その全額を自由に使えるとは限りません。仲介手数料や登記に関する費用などがかかる場合があります。また、譲渡益が生じれば譲渡所得税・住民税の対象になることもあります。一定の要件を満たせば相続税の一部を取得費に加算できる特例もありますが、個別の確認が必要です。売却予定価格だけでなく、費用や税金を考慮した手取り額を確認しておくことが大切です。
現金で納税できない場合の制度もある
相続税は原則として金銭で一括納付します。ただし、一定の要件を満たす場合には、分割して納める「延納」や、金銭以外の財産で納める「物納」の制度があります。いずれも希望すれば誰でも利用できるわけではなく、納税困難の事情や対象財産などに要件があり、原則として申告期限までに申請が必要です。不動産が売れなければ必ず物納できる、というわけではありません。早めに税理士へ相談することが重要です。
生前に財産を把握しておくことが、最初の相続対策
今回の顧客様のお話で特に大切だと感じたのは、知らなかった株式が見つかったことです。預貯金があることは知っていても、株式、投資信託、生命保険、不動産など、家族がすべて把握しているとは限りません。亡くなった後に初めて存在が分かれば、調査や評価にも時間がかかります。
まずは元気なうちに、預貯金、有価証券、不動産、生命保険、借入金などを一覧にしておくこと。相続税が発生しそうなら税理士に概算を試算してもらい、必要な現金をどこから確保するか考えておくこと。生命保険の活用や不動産の生前整理なども、状況に応じて検討できます。何も知らずに相続を迎えるのと、財産の全体像を把握しているのとでは、対応のしやすさが違うと思います。
相続税を減らすことだけが、相続対策ではない
これまでの相続対策シリーズでは、不動産の評価や売却、認知症への備えなどを取り上げてきました。相続税の負担を減らすことも、財産を円滑に引き継ぐことも大切です。しかし、想定外の財産が見つかり、納税額に驚くこともあります。不動産という財産があっても、必要なときに現金化できるとは限りません。
だからこそ、「相続税はいくらかかるのか」だけでなく、「その税金をどこから支払うのか」まで考えておくことが大切です。突然の相続で慌てて大切な不動産を売却することにならないように。そして、ご家族が納税資金のことで困らないように。元気なうちから財産の棚卸しを行い、必要に応じて専門家へ相談していただければと思います。
エンラージ株式会社では、枚方市を中心に、不動産の査定・売却・管理や相続に関するご相談を承っています。相続税の計算や申告については税理士、不動産の相続登記については司法書士など、専門家と連携しながら考えることが大切です。生前のご相談もお気軽にお寄せください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。相続税の申告義務、納税額、特例、延納・物納などの適用可否は個別の事情に応じて税理士等へご確認ください。顧客様の事例はプライバシーに配慮して紹介しています。

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