【相続対策シリーズ⑪】生前贈与は本当にお得?|年間110万円の贈与から教育・住宅資金まで

第3章|生前にできる具体的な対策

「子どもに毎年110万円ずつ渡せば、相続税対策になると聞いたのですが、本当でしょうか?」

相続対策について調べていると、このようなお話を耳にすることがあると思います。

確かに、生前贈与は相続対策の選択肢の一つです。元気なうちに子どもや孫へ財産を渡すことで、将来の相続財産を減らせる場合があります。

しかし、贈与税がかからないからといって、必ずしも相続税の負担まで軽くなるとは限りません。また、財産を渡すことばかりを優先して、ご自身の老後の生活資金が不足してしまっては本末転倒です。

今回は、生前贈与の基本的な仕組みと、贈与する前に考えておきたいことについてお伝えします。

まずは財産の棚卸しと、これからのライフプランを考える

私は、生前贈与を始める前に、まず現在の財産を整理することが大切だと考えています。

不動産、預貯金、株式や投資信託、生命保険などを確認し、借入金などの債務も含めて財産の全体像を把握します。

そのうえで、相続人の人数や相続税評価額をもとに、将来どの程度の相続税がかかるのかを概算します。

そもそも相続税が発生しないのであれば、相続税を減らすことだけを目的に生前贈与を急ぐ必要はありません。

そして、もう一つ重要なのが、ご本人のこれからのライフプランです。

現在の年金収入はいくらあるのか。お仕事を続けているのであれば、今後どの程度の収入が見込めるのか。

また、これからも自宅で暮らし続ける場合の生活費や、将来介護施設に入居する場合の費用なども考えておきたいところです。

医療費や介護費、住まいの修繕費など、予期しない支出が発生することもあるでしょう。

贈与できる金額と、贈与しても安心して暮らせる金額は、必ずしも同じではありません。

まずはご自身の生活に必要なお金を確保し、そのうえで無理のない贈与を検討することが大切だと思います。

毎年110万円までなら、贈与税はかからない?

一般的な生前贈与の方法として知られているのが「暦年課税」です。

暦年課税には、贈与を受ける方1人につき、1年間で110万円の基礎控除があります。

例えば、親から子へ、その年に110万円を贈与した場合、ほかに贈与がなければ原則として贈与税はかかりません。

ただし、この110万円は、贈与する人ごとではなく、受け取る人が1年間に受けた贈与の合計額に対する基礎控除です。

例えば、父親から110万円、母親から110万円を同じ年に受け取った場合、合計220万円となり、110万円を超えた部分は原則として贈与税の課税対象になります。

また、贈与は実際に成立していることが重要です。

子ども名義の口座にお金を入れていても、親が通帳や印鑑を管理し続け、子ども自身が贈与されたことを知らないような場合には、親の財産と判断される可能性があります。

贈与する側と受け取る側の双方が贈与を認識し、実際に受け取った方が財産を管理できる状態にしておくことが大切です。

7年間で770万円を贈与したら、相続税はどうなる?

ここは、特に知っておいていただきたい部分です。

例えば、親が子どもに毎年110万円ずつ、7年間で合計770万円を贈与したとします。

贈与税の基礎控除の範囲内であれば、それぞれの年の贈与税は原則としてかかりません。

しかし、その後に親が亡くなり、贈与を受けた子どもが相続によって財産を取得した場合には、過去の贈与が相続税の計算に加算されることがあります。

2024年からの税制改正によって、暦年課税による贈与財産の加算対象期間は、従来の相続開始前3年間から7年間へ段階的に延長されています。

2031年1月1日以降に相続が発生する場合には、原則として相続開始前7年以内の対象となる贈与が加算されます。

ただし、相続開始前3年を超え7年以内の贈与については、その期間の贈与財産の合計額から100万円を控除する仕組みがあります。

例えば、相続開始前7年間に毎年110万円ずつ贈与していた場合、各贈与が加算対象期間に含まれるという前提では、次のようになります。

内容 金額
7年間の贈与総額 770万円
相続開始前3年以内の贈与 330万円
3年超7年以内の贈与 440万円
3年超7年以内の贈与に対する控除 ▲100万円
相続税の計算に加算する金額 670万円

※2031年以降の相続を想定した単純化した例です。実際の加算対象額は贈与日・相続開始日などによって異なり、2030年までの相続には経過措置があります。

毎年110万円以内の贈与であっても、相続税の計算から必ず除外されるわけではありません。

教育資金や住宅取得資金には、別の非課税制度もある

生前贈与には、年間110万円の基礎控除以外にも、一定の目的で財産を渡す場合の制度があります。

子どもや孫の教育費を負担する場合

親や祖父母が、扶養義務のある子どもや孫の教育費を、必要な都度負担する場合には、通常必要と認められる範囲で贈与税がかかりません。

例えば、授業料や教材費などを必要に応じて負担する場合です。

ただし、教育費という名目でまとまったお金を渡し、実際には預貯金として残している場合などは、取り扱いが異なることがあります。

なお、以前設けられていた「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」は、2026年3月31日で新規適用が終了しています。すでに制度を利用している方については、引き続き管理や課税に関するルールが適用されます。

マイホームを取得するための資金を贈与する場合

親や祖父母から、子どもや孫が住宅を取得するための資金を贈与する場合、一定の要件を満たせば非課税となる制度があります。

2026年12月31日までの贈与については、省エネ等住宅が最大1,000万円、その他の住宅が最大500万円の非課税限度額です。

ただし、受贈者の年齢や所得、住宅の床面積、取得・居住の時期など、さまざまな条件があります。また、非課税枠の範囲内であっても、原則として贈与税の申告が必要です。

住宅購入を検討しているお子さんがいらっしゃる場合には、こうした制度を確認しておくことも有効だと思います。

結婚・子育て資金の贈与

親や祖父母が、子どもや孫の結婚・子育て資金を一括して贈与する場合にも、一定の条件で最大1,000万円まで非課税となる制度があります。

2026年10月時点では、2027年3月31日までの制度です。

ただし、金融機関での専用口座の開設や、対象となる費用の確認などが必要です。贈与者が亡くなった場合や契約終了時には課税関係が生じることもあるため、制度の内容を理解して利用する必要があります。

相続時精算課税という方法もある

生前贈与には、暦年課税のほかに「相続時精算課税」という制度もあります。

原則として、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫などへの贈与について、一定の条件のもとで選択できる制度です。

2024年からは、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられました。この基礎控除の範囲内の贈与については、原則として贈与税がかからず、将来の相続税の計算にも加算されません。

また、年間110万円の基礎控除とは別に、累計2,500万円の特別控除があります。ただし、この特別控除を利用した部分などは、原則として将来の相続税の計算に加算されます。

一度、特定の贈与者について相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできません。

どちらが有利になるかは、財産の総額や贈与する時期、将来の相続の状況などによって異なります。制度の名前や非課税枠の大きさだけで判断せず、税理士などの専門家と相談して選択することが大切です。

贈与されたお金は、次の世代のために有効に使ってほしい

せっかく生前贈与をするのであれば、受け取った側にも、そのお金を有効に使っていただきたいと思います。

旅行や娯楽に使うことが悪いわけではありませんが、将来のために財産を残したいという目的があるなら、使い道も考えておきたいところです。

すぐに使う予定がなければ、預貯金として残しておく方法があります。あるいは、株式や投資信託などを活用し、長期的な資産形成に取り組むことも選択肢になるでしょう。もちろん、投資には元本割れのリスクがあります。

また、お子さんの教育費に充てたり、住宅ローンの繰り上げ返済に利用したりすることも考えられます。ただし、住宅ローンの繰り上げ返済については、手元資金が減ることや住宅ローン控除への影響なども確認したいところです。

財産を渡すことだけでなく、その財産が次の世代の暮らしにどう役立つのか。そこまで考えることが、意味のある生前贈与につながるのではないでしょうか。

判断能力が低下した場合への備えも考えておく

生前贈与を検討する際には、将来、ご本人が認知症などによって財産管理や契約の判断を十分にできなくなる可能性についても考えておきたいところです。

例えば、介護施設への入居費用を確保するために、不動産の売却が必要になることもあるでしょう。しかし、ご本人の判断能力が低下している場合には、不動産の売却や財産管理が難しくなることがあります。

こうした事態に備え、元気なうちにご家族と今後の生活や財産の管理について話し合っておくことが大切です。

方法の一つとして、民事信託(家族信託)があります。信頼できる家族に一定の財産の管理や処分を託し、その財産を本人の生活費や介護費用などに活用できるようにする仕組みです。

ただし、民事信託ですべての問題を解決できるわけではありません。施設への入居契約など、本人に代わって法律行為を行う必要がある場合には、任意後見制度なども含めて検討する必要があります。

贈与によって財産を減らすことだけでなく、ご自身の財産を、ご自身のために必要なときに使えるようにしておくことも、生前にできる大切な対策だと思います。

生前贈与は、ご自身の暮らしを守ったうえで

生前贈与は、上手に活用すれば次の世代への財産の引き継ぎに役立つ制度です。しかし、年間110万円の基礎控除があるからといって、毎年必ず贈与する必要があるわけではありません。

まずは財産の棚卸しを行い、将来の相続税額を概算すること。そして、年金などの収入と、今後の生活費、医療費、介護費などを考え、ご自身の人生に必要なお金を確保すること。

そのうえで、無理のない範囲で子どもや孫へ財産を引き継いでいくことが大切だと思います。

相続対策のために、今を生きるご本人の生活が犠牲になってはいけません。

私は、生前贈与で最も大切なのは、いくら税金を減らせるかではなく、贈与する方と受け取る方の双方が、将来に向けて安心できる形を考えることだと思います。

エンラージ株式会社では、不動産を含めた財産の整理や活用、相続対策についてご相談を承っています。まずは今ある財産と、これからの暮らしについて、一緒に整理するところから始めてみませんか。


エンラージ株式会社
大阪府枚方市を中心に、不動産売却・活用・相続に関するご相談を承っております。

※本記事は2026年10月時点の制度を前提とした一般的な解説です。税制の適用要件や個別の税額については、税理士・税務署などにご確認ください。


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