先日、全日本不動産協会が開催する相続研修に参加してきました。
これまでも不動産業を通じて、相続に関するさまざまなご相談をいただいてきましたが、今回の研修を受けて、改めて感じたことがあります。
それは、相続対策は、相続が発生してからではなく、元気なうちから始めることが大切だということです。
相続対策というと、相続税を少なくするための節税対策を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、私が実際に経験したご相談では、相続税だけでなく、不動産の名義や親族間の話し合いなど、さまざまな問題がありました。
今回から、相続対策について一つずつわかりやすくお伝えするシリーズを始めたいと思います。
第1回は、私が経験した2つの事例を交えながら、生前に考えておきたい3つのことについてお話しします。
不動産の名義が前の世代のままだった事例
以前、ご相談いただいた相続案件で、亡くなられた方が暮らしていた土地建物が、その方の親の名義のままになっていたことがありました。
その親も既に亡くなられていたため、過去の相続関係を遡って確認する必要がありました。
関係する親族も増え、必要な方々から遺産分割について同意を得ることは簡単ではありませんでした。
亡くなられた方と長年一緒に暮らし、身の回りのお世話をされてきた方もいらっしゃいましたが、親族側から権利の主張があり、話し合いは難航しました。
最終的には、金銭による解決となりました。
もし以前の相続が発生した段階で不動産の名義を整理し、その後の財産の引き継ぎ方についても準備ができていれば、状況は違っていたかもしれません。
不動産の名義をそのままにしておくと、時間の経過とともに関係者が増え、次の世代に大きな負担を残すことがあります。
突然の相続で、十分な対策ができなかった事例
もう一つは、突然相続が発生したことで、生前に十分な対策を検討する機会がなかった事例です。
亡くなられた方には預貯金などの財産があり、結果として相続税の負担が大きくなりました。
現金や預貯金は、原則としてその金額を基準に相続税の評価が行われます。
一方、不動産は評価方法が異なります。
例えば、現金で土地や建物を購入した場合、購入価格よりも相続税評価額が低くなることがあります。
また、その不動産を賃貸物件として活用していれば、一定の条件のもとで、さらに評価額が下がる可能性もあります。
生命保険についても、契約内容や受取人などの条件を満たせば、死亡保険金の非課税枠を活用したり、相続税を納めるための資金を準備したりすることができます。
もちろん、不動産を購入すれば必ず相続税が安くなるわけではありません。購入費用や維持管理、空室リスク、将来の売却なども考える必要があります。
それでも、元気なうちに資産の状況を把握し、税理士などの専門家と相談していれば、さまざまな選択肢を検討できたかもしれません。
相続が発生してからでは、選べなくなる対策もあるのです。
2つの事例に共通していたこと
この2つの事例には、共通していたことがあります。
それは、遺言書がなく、生前に資産の棚卸しができていなかったことです。
遺言書があればすべての問題が解決するわけではありませんが、ご自身の意思を明確にしておくことは、残されるご家族にとって大切な準備の一つです。
そして、その前提として必要なのが、ご自身の財産を把握することではないでしょうか。
私は、相続対策を始めるにあたり、次の3つが大切だと考えています。
① まずは自分の資産を棚卸しし、相続税の目安を知る
相続対策の第一歩は、ご自身がどのような財産を、どれだけ所有しているのかを把握することです。
不動産はどこに、いくつあるのか。預貯金はいくらあるのか。生命保険には加入しているのか。株式などの有価証券はあるのか。借入金は残っていないか。
また、不動産については現在の登記名義も確認しておきたいところです。
こうした財産を一つずつ整理することで、ご自身の資産の全体像が見えてきます。
そして、もう一つ大切なのが、現状の財産を相続することになった場合、相続税がどの程度かかるのかを把握しておくことです。
相続税には基礎控除があるため、すべての方に相続税がかかるわけではありません。
しかし、相続税が発生する可能性があるのであれば、税理士さんに相談して税額の目安を確認し、納税のための資金を準備しておくことも大切です。
まずは財産を把握すること。そして、現状のまま相続が発生した場合に、どのような負担が生じるのかを知ること。
そこから具体的な相続対策が始まるのだと思います。
② 第三者の視点で、できる対策を考える
資産の棚卸しができ、相続税の目安もわかれば、次はどのような対策ができるのかを考えます。
例えば、現在所有している不動産を売却するという選択肢もあれば、新たに土地や建物を購入するという選択肢もあります。
また、所有している不動産を賃貸物件として活用する方法も考えられます。
現金と不動産では相続税の評価方法が異なり、不動産の利用状況によっても評価額が変わる場合があります。
そのため、資産の持ち方を見直すことで、相続税の負担を軽減できる可能性もあります。
私たち不動産会社は、日々の業務を通じて、不動産の購入・売却・賃貸・活用に携わっています。
だからこそ、不動産の専門家として、お客様の資産をどのように活用できるのか、さまざまな選択肢をご提案することができます。
もちろん、相続税が実際にどれくらい変わるのかについては、税理士さんによる試算や確認が必要です。
また、相続税を減らすためだけに不動産を購入しても、将来の維持管理費や空室リスク、売却の難しさなどによって、かえってご家族の負担が増えてしまうこともあります。
大切なのは、税金だけではなく、資産全体を見ながら判断することです。
相続税の負担を軽減し、納税資金も確保できれば、次の世代へ引き継ぐ際の負担を少しでも軽くできるかもしれません。
私は、それも大切な相続対策の一つだと思っています。
そして、こうした相談を安心して任せていただけるよう、エンラージも知識を深め、税理士さんや司法書士さんなどの専門家と連携しながら、お客様の資産を守る立場で考えていきたいと思います。
③ 誰に何を残したいのか、自分の希望を整理する
相続対策では、家族で話し合うことが大切だと言われます。
もちろん、私もそう思います。
ただ、突然親から相続について相談されても、子どもたちは「自分の好きなようにしたらいいんじゃない?」としか答えられないかもしれません。
本音では気になることがあったとしても、そもそもどのような財産があるのかわからなければ、具体的な話し合いは難しいのではないでしょうか。
だからこそ、まずはご自身の財産を整理し、どのような方法があるのかを知ること。
そのうえで、誰に何を残したいのか、ご自身の希望を考えることが大切だと思います。
希望が整理できれば、ご家族との話し合いもしやすくなるのではないでしょうか。
必要に応じて、遺言書の作成なども専門家に相談しながら検討しておきたいところです。
不動産会社として、お客様の資産を守る立場でありたい
相続が発生したとき、税理士さんに相談しようと考える方は多いと思います。
しかし、相続が発生する前の段階では、私たち不動産会社にもお手伝いできることがあると考えています。
不動産会社は、日々家主様やお客様と接するなかで、不動産のことだけでなく、ご家族のことや将来の暮らしについてお話を伺う機会があります。
長年のお付き合いがあるからこそ、気づけることもあるかもしれません。
私は、不動産会社の仕事は、単に物件を売ったり貸したりすることだけではないと思っています。
お客様の大切な資産を守り、次の世代へつないでいくこと。
それも、私たち不動産会社が担える大切な役割の一つではないでしょうか。
ただし、そのためにはお客様から信頼していただける存在でなければなりません。
私自身も、相続についてまだまだ学ばなければならないことがたくさんあります。
これからも知識を深め、税理士さんや司法書士さんなどの専門家とも連携しながら、お客様のお役に立てる不動産会社を目指していきたいと思います。
まずは、資産の棚卸しから始めてみませんか?
「相続のことは、まだ先だから」
そう考えている方も多いかもしれません。
しかし、今回ご紹介した2つの事例のように、相続が発生してからでは、できることが限られてしまう場合があります。
まずは、ご自身がどのような財産を持っているのか、書き出してみることから始めてはいかがでしょうか。
難しい対策を考えるのは、その後でもよいと思います。
相続対策は、相続税を減らすことだけが目的ではありません。残されるご家族が困らないように、大切な資産を守り、引き継ぐための準備でもあります。
元気な今だからこそ、できることがあります。
エンラージ株式会社も、そんな皆様の身近な相談相手になれるよう、これからも学び続けていきたいと思います。
次回の相続対策シリーズでは、「我が家に相続税はかかる?基礎控除と相続税の基本」について、わかりやすくお伝えしたいと思います。
※本記事の事例は、個人が特定されないよう一部の表現を整理しています。相続税の取扱いや不動産の評価、遺言書の作成などは個別の事情によって異なります。具体的な判断は税理士・司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。

コメントを残す