仕事の依頼をいただけるのは、本当にありがたいことです。
商売をしていれば売上は欲しいですし、特に売上が少ない時期なら「何とか契約につなげたい」と思うのは自然なことだと思います。
私もそうでした。
ただ今は、せっかくお問い合わせをいただいても、内容によってはお断りすることがあります。
最初からそう考えていたわけではありません。
昔、売上が欲しくて契約を進め、その後、家主様や管理部門など周囲の方々に迷惑をかけてしまった経験があるからです。
サラリーマン時代、売上が欲しくて契約した倉庫
エンラージを創業する前、サラリーマンとして不動産の仕事をしていた頃の話です。
中古車販売をされている方から、仕入れた車を売れるまで保管するための倉庫を借りたいという依頼がありました。
中古車販売では、仕入れた車を販売するまで保管する場所が必要です。倉庫の中に車を保管するという用途自体には筋が通っていました。
当時の私はまだ若く、売上も欲しかったことから契約を進めました。
ところが、実際に利用が始まると問題が起こりました。
倉庫の中に収まりきらない車が路上に駐車されるようになり、是正をお願いしても、なかなか応じていただけませんでした。
さらに、契約開始後まもなく家賃の支払いも遅れるようになりました。経済的に支払えないというより、支払いに対してルーズな方だったように感じました。そのため、毎月のように回収にも苦労しました。
「この契約を担当したのは誰?」となってしまった
問題が続けば、当然、家主様も困ります。
管理を担当する人たちも対応しなければなりません。
そして最後には、「この契約を仲介したのは誰なのか」という話になります。
私です。
当時の私は若かったこともあり、相手に対して毅然と是正を求めることも十分にできませんでした。
結果として、家主様にも、管理部門の方々にも、この案件に携わった方々にも迷惑をかけてしまいました。
もちろん、契約後に起きることをすべて仲介会社が予測できるわけではありません。
それでも私にとっては、「契約を取ることだけを考えてはいけない」と学んだ大きな経験になりました。
今は、お問い合わせの段階でお断りすることもあります
この経験もあって、今は「契約できるか」だけではなく、契約した後のことまで考えるようになりました。
実際に、エンラージでもお問い合わせの段階でお断りしたケースがあります。
一つは、デリバリーヘルスの待機場所として事務所を借りたいというお問い合わせです。
当社では風俗関連用途の仲介は取り扱わない方針のため、お電話の段階でお断りしました。
その後、別の方から、この対応について納得がいかないという趣旨の強い口調の連絡を受けました。
結果として、契約後のことまで考えると、最初の段階でお断りして良かったと思ったケースです。
なぜ、遠方からこのガレージを借りるのだろう?
シャッター付きガレージへのお問い合わせでも、契約を進めなかったことがあります。
近隣に駐車スペースがなく、近くのガレージを借りたいということであれば、目的は分かりやすいです。
ところがあるとき、車で1時間ほど離れた場所から、わざわざそのシャッター付きガレージを借りたいというお問い合わせがありました。
もちろん、遠方に住んでいるというだけでお断りするわけではありません。
ただ、「なぜこの場所なのだろう?」という疑問がありました。
用途などを確認したうえで、当社として納得できる理由が確認できなかったため、契約を進めませんでした。
本当の目的が何だったのかは、今も分かりません。
だからこそ、分からないまま契約を進めないという判断も必要だと思っています。
「お金を払うんだから、何を入れてもいいだろう」
別のガレージのお問い合わせでは、こんなこともありました。
「ガレージの中には、何を保管されますか?」
用途を確認するためにそう質問すると、
「お金を払って借りるんだから、何を入れてもいいだろう」
という趣旨の回答が返ってきました。
借りる側からすれば、「賃料を払うのだから自由に使いたい」と思われるかもしれません。
ただ、賃貸物件には契約上の用途があります。
何を保管するのか確認できないまま、貸主様の大切な物件を仲介することはできません。
このケースも、契約を進めませんでした。
バイク仲間で集まる場所として使いたい
シャッター付きガレージでは、バイク好きの方々からお問い合わせをいただくこともあります。
バイクを置くだけではなく、仲間と集まって整備をしたり、バイクを囲んで話をしたりする場所として使いたいというケースです。
お気持ちはよく分かります。
シャッターがあって雨風もしのげる。仲間と好きなバイクを触れる場所があれば、楽しいだろうなとも思います。
ただ、そのための用途として貸し出している物件でなければ、話は別です。
明らかに用途が違う場合はお断りしますし、複数人で来店されるなど、利用方法が分かりにくい場合には、実際にどのように使う予定なのかをきちんと確認します。
大切なのは、見た目や雰囲気だけで決めつけることではなく、「何のために借りるのか」を確認することだと思っています。
契約はゴールではなく、その後が始まり
駆け出しの頃は売上も少なく、一件の契約が喉から手が出るほど欲しいと思うこともありました。
今でも商売をしている以上、もちろん売上は欲しいです。
それでも、目の前の仲介手数料だけを考えて契約してしまい、その後トラブルになれば、迷惑を受けるのは家主様や周囲の方々です。
私たちも、その対応に追われることになります。
だから「少しおかしいな」と感じたときには、まず理由を確認する。
自分だけで判断しにくい場合はスタッフとも確認する。
必要であれば家主様にも状況を伝える。
そのうえで、それでも契約後に問題になる可能性があると考えれば、契約しないという選択をすることがあります。
契約したら終わりではありません。契約したところから、貸主様との関係も借主様との関係も始まります。
皆さんの仕事にも「断る仕事」はありませんか?
ここまで不動産の話を書いてきましたが、これは不動産業だけの話ではないように思います。
飲食店でも、建築でも、小売でも、サービス業でも。
「売上にはなる。でも、この仕事は受けない方がいいかもしれない」
そんな場面はないでしょうか。
私自身、最初からうまく判断できていたわけではありません。
若い頃に、売上を優先して契約し、周囲の人たちに迷惑をかけてしまった経験があります。
だから今は、目の前の売上だけではなく、その仕事を受けた後まで想像して判断することを意識しています。
それでも、いつも簡単に答えが出るわけではありません。
皆さんの仕事ではどうでしょうか。
「売上になるけれど、断った仕事」ありますか?
もしあれば、一度その理由を振り返ってみると、自分たちが仕事で大切にしているものが見えてくるかもしれません。

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